概要
地域所得モデルにおいて、移出・移入は重要な要素である。
移出は外生変数として扱われ、移出という地域外の需要が大きな影響を与えるものとされている。
移入は地域の所得に応じてなされるとされ、移入性向に影響を受けるとされる。そして、移入性向が大きいほど、乗数は小さくなる。これは、所得が増加しても、地域外から財・サービスを購入する場合が多いため、地域内の所得の増加にはつながりにくいからだ。
しかし、このモデルをそのまま使うと、問題が生じる場合がある。
右の図は、47都道府県の移出率と移入率をプロットしたものである。見たらわかるように、移出率の高い地域は移入率も高く、移出率の小さい地域は移入率も小さい。相関係数も0.86と高い相関を示している。
そこで基本モデルについて、次のように変えるものとする。は、移入とは無関係に生じた地域外の需要であり、は、移入から生じた移出の限界性向である。
この式をもとに、地域所得モデルの基本モデルを変えると、次のようになる。
投資を内生化した場合と同様に、やの分だけ、基本モデル比べて乗数は大きくなる。
実証
表から、いずれのモデルも、トップと最下位では倍以上の差があることが分かる。つまり、同じ財政支出などを行っても、その効果は、倍以上の違いが生じることを示している。
また、基本モデルでは法則性は見えにくい。なぜならば、上記で述べたように、移出の大きい都道府県は、移出も大きく乗数が小さくなるためである。
基本モデル | 拡張モデル | |||
---|---|---|---|---|
1位 | 埼玉県 | 1.00 | 埼玉県 | 2.65 |
2位 | 奈良県 | 0.98 | 千葉県 | 2.38 |
3位 | 北海道 | 0.93 | 神奈川県 | 2.16 |
4位 | 神奈川県 | 0.89 | 奈良県 | 2.11 |
5位 | 沖縄県 | 0.87 | 愛知県 | 2.06 |
… | … | … | … | … |
43位 | 群馬県 | 0.54 | 沖縄県 | 1.18 |
44位 | 静岡県 | 0.54 | 高知県 | 1.14 |
45位 | 栃木県 | 0.54 | 島根県 | 1.14 |
46位 | 滋賀県 | 0.51 | 秋田県 | 1.14 |
47位 | 三重県 | 0.44 | 宮崎県 | 1.13 |
他方、拡張モデルでは、首都圏・関西圏・中部圏などの人口の多い地域が上位に来ており、逆に人口が少ない地方では乗数は小さくなっている。これは、同じ財政支出をするにしても、都会ほど効果があり、地方では財政効果が弱いことを示している。特に、下位の地方では、移出が小さく、移入のほうが大きい場合も多く(移出入で赤字)、財政効果が弱められる点がある。鶏が先か、卵が先かといった議論に近いが、これらの県は、財政支出を行う前に、いかに移出競争力をつけるかが重要なポイントである。
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