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地域所得モデルによる移出内生化モデルによる分析

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概要

 地域所得モデルにおいて、移出・移入は重要な要素である。

 移出は外生変数として扱われ、移出という地域外の需要が大きな影響を与えるものとされている。
 移入は地域の所得に応じてなされるとされ、移入性向に影響を受けるとされる。そして、移入性向が大きいほど、乗数は小さくなる。これは、所得が増加しても、地域外から財・サービスを購入する場合が多いため、地域内の所得の増加にはつながりにくいからだ。

参考基本モデルについては「地域所得モデル

 しかし、このモデルをそのまま使うと、問題が生じる場合がある。

 問題なのは、地域経済において、移出と移入のリンクが大きいということである。地域経済はその地域だけではなく、他の地域と大きく関わっている。財・サービスを生産するにあたっても、地域内の中間財だけでは生産できない場合が多い。そのため、移出が多い地域は、必然的に移入も大きい。

 右の図は、47都道府県の移出率と移入率をプロットしたものである。見たらわかるように、移出率の高い地域は移入率も高く、移出率の小さい地域は移入率も小さい。相関係数も0.86と高い相関を示している。

47都道府県の移出率・移入率(2009年度)
47都道府県の移出率・移入率(2009年度)

 そこで基本モデルについて、次のように変えるものとする。eは、移入とは無関係に生じた地域外の需要であり、xは、移入から生じた移出の限界性向である。

  X=e+xM

 この式をもとに、地域所得モデルの基本モデルを変えると、次のようになる。

  \displaystyle Y=\frac{bx}{1-c+(1-x)m}(a+\overline{I}+\overline{G}+e-b))

 投資を内生化した場合と同様に、bx-mxの分だけ、基本モデル比べて乗数は大きくなる。


実証

 上記の基本モデルと拡張モデル(移出の内生化)について、県民経済計算を用いて、県民所得に対する乗数を計算し、上位・下位5位についてみたのが、次の表である。なお、民間消費については県民所得、移入は県内純生産に依存するとし、消費・移出・移入については、単純化のため、独立項は0として計算している。また、それぞれの係数については、限界性向ではなく、平均性向を用いている。

 表から、いずれのモデルも、トップと最下位では倍以上の差があることが分かる。つまり、同じ財政支出などを行っても、その効果は、倍以上の違いが生じることを示している。

 また、基本モデルでは法則性は見えにくい。なぜならば、上記で述べたように、移出の大きい都道府県は、移出も大きく乗数が小さくなるためである。

基本モデル 拡張モデル
1位 埼玉県 1.00 埼玉県 2.65
2位 奈良県 0.98 千葉県 2.38
3位 北海道 0.93 神奈川県 2.16
4位 神奈川県 0.89 奈良県 2.11
5位 沖縄県 0.87 愛知県 2.06
43位 群馬県 0.54 沖縄県 1.18
44位 静岡県 0.54 高知県 1.14
45位 栃木県 0.54 島根県 1.14
46位 滋賀県 0.51 秋田県 1.14
47位 三重県 0.44 宮崎県 1.13
参考他の都道府県は「所得乗数ランキング」


 他方、拡張モデルでは、首都圏・関西圏・中部圏などの人口の多い地域が上位に来ており、逆に人口が少ない地方では乗数は小さくなっている。これは、同じ財政支出をするにしても、都会ほど効果があり、地方では財政効果が弱いことを示している。特に、下位の地方では、移出が小さく、移入のほうが大きい場合も多く(移出入で赤字)、財政効果が弱められる点がある。鶏が先か、卵が先かといった議論に近いが、これらの県は、財政支出を行う前に、いかに移出競争力をつけるかが重要なポイントである。


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