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地域にとっての重要産業の誤謬・歪み

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概要

 国はもちろん、地方自治体にとっても、どのような産業を育成・拡大していくかは重要である。
 このとき、これから伸びていく産業を支援することが重要であるとされ、成長戦略などが検討される。

 しかし、かつて高度成長の頃は、ある程度、どのような産業が伸びていくかを予想ができたが、現在の成熟国となった日本にあっては、そのような産業を予測することは難しく、逆に自ら新たな産業を創出しなければならない時代となっている。

 この意味で、成長戦略といったものは、無意味なことも多い。

 それ以上に現状の問題点としては、自分の地域の産業について、多くの誤謬・歪みをもって、認識していることが多いように思う。


誤謬・歪み

 それではどのような誤謬や歪みがあるのか。

 1つは、その地域では産地であったり、有力であるかもしれないが、他の地域では弱いといった場合である。

 例として挙げるならば、「○○牛」といったブランド牛などで見られることである。日本全国各地でブランド牛として、PRしていることが多いが、実際の消費者として認識されているのは、神戸牛や松阪牛など、いくつかの牛に限られるだろう。

 このような事実について、認識がなされていなかったりもするが、他に有力な産業が見当たらず、その地域では重要産業と考えられていることも多い。


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「○○牛」って言われているけど、本当にいいの?


 2つは、かつて、重要な産地・産業であったが、現状は他の地域に抜かれていたり、衰退してしまっている場合である。

 弱体化・衰退しているにもかかわらず、ある種の地域ブランドがあるため、重要産業として継続されていたり、利害関係者が多く、重要産業として位置付けなければならないという事情がある。

 例として分かりやすいのは、かつての通産省の石炭産業への支援だろう。高度成長期、すでに産業構造が変化しているにもかかわらず、衰退産業への産業政策・産業支援を実施し、産業政策の失敗例となっている。


 3つは、大企業が絡んでいると、施策として重要産業とは見なされにくい。

 地方自治体の育成・支援の中心は、中小企業である。
 大企業も重要であることは認識しているが、財政の弱い地方自治体としては、何もできなかったり、財政支出を行っても、その大企業からすれば微々たるものであるため、政策・施策としては重要産業とは位置づけられにくくなる。また、表立って、大企業支援を行うことは、政治的・行政的に行いにくい面がある。

 (愛知県を批判するつもりはないが)例えば、愛知県といえば、トヨタである。しかし、愛知県の産業振興策としては、トヨタへの支援ではなく、自動車産業全体や部品産業への支援となる。

愛知県「「あいち自動車産業イノベーションプラン」を策定しました


 4つは、縦割りであったり、本当に知らないということがある。

 その地域に住んでおり、そのような仕事をしていても、すべてを知っているわけではない。また、少し分野が異なれば、政策担当者は知らず、重点的にはならないことがある。

 例えば、農業と食品製造業はリンケージしていることも多いが、商工担当者からすると農業・生産者については知らず、農林担当者からすると食品製造業者について知らないということがある(なお、私は「縦割り行政のどこが悪い?」で述べたように、縦割りはある種、仕方がないと思っている)。

 また、中間財の製造、特定分野の製造業などは、一般的なニュースになりにくく、分かりにくいため、見逃されてしまう。


まとめ

 多くの自治体などで、産業ビジョンや産業戦略などが策定されている。

 しかし同時に、上記のような誤謬や歪みが生じていることも多い。

 政治的にはマイナスであるが、自分の地域の足元をしっかりと見据えなければ、折角の政策・施策も無駄になってしまう。

 特に、戦略が大きく変わってしまうにもかかわらず、他の地域の動向を考えていないことが多いように思う。
 例えば、地域ブランド戦略において、農産品や食品などは、いきなり全国で勝負するより、地域でのシェアを増加させる方が競争的には容易にも関わらず、いきなり全国ブランドを目指そうとしたりしているところが多いように思う。

 特産品・成長戦略などを論じる前に、自らの立ち位置をしっかりと見据えなければ、地域の政策・施策はスタートしない。

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